研究概要 |
フッ素置換基は、フッ化物イオンとしての脱離能を有すると共に、α-カチオン安定化効果も有している。これらの性質を併せて利用すると、各種フルオロアルケン類からα-フルオロカルボカチオン種を容易に発生させることができ、これを経由するタンデム環化やドミノ環化が進行すると期待できる。こうした反応により、高次ヘリセンなど種々のヘリセン・アセン類およびそれらのフッ素置換体を合成できることになる。本年度は、出発物質のひとつとなる1,1-ジフルオロアルケンの簡便合成法の確立と、1,1-ジフルオロアレンのドミノカチオン環化反応を検討した。 まず、1,1-ジフルオロアルケン合成法を確立した。熱的に不安定で取り扱い難かった2,2-ジフルオロビニル亜鉛種に対し、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)との錯形成による安定化法を見出した。これをクロスカップリング反応に利用することで、1,1-ジフルオロアルケンの簡便合成法を確立した。また、昨年度までに達成した1,1-ジフルオロアルケンのドミノ環化によるヘリセン合成を利用し、特異な構造を有するシクロビス[4]ヘリセンの合成にも成功した。 次ぎに、1,1-ジフルオロアレンのカチオン環化反応に成功した。上述のフッ素置換基の性質を利用し、既に1,1-ジフルオロ-1-アルケンの分子内Friedel-Crafts型環化によりに縮合環化合物を合成していたが、電子不足のジフルオロアルケンを直接プロトン化するのに超強酸FSO_3H・SbF_5を必要とした。そこで、プロトン化し易いアルケン部位を導入して1,1-ジフルオロアレンとすることにより、穏和な条件下で同様のカチオン環化を達成し、縮合芳香環系を構築した。すなわち、1,1-ジフルオロアレンに臭化インジウム(III)触媒を作用させ、ドミノ環化-アルキル転位、脱プロトンによるフッ素置換ナフタレン誘導体の簡便合成に成功した。
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