研究課題
生体反応中間体の中には、人工系では極度に不安定であるために研究が困難な化学種が多くある。特に、システイン残基と活性酸素種および活性窒素種との相互作用によるレドックス制御機構については、不安定な反応中間体を含むものが多く知られている。本研究では、独自に開発したナノサイズのキャビティ型分子を活用することで、従来合成困難であったシステイン由来の生体反応中間体を安定化し、提唱されてきた反応機構を化学的に検証することを目的とした。近年生化学の分野で注目を集めている活性窒素種ニトロキシル(HNO)は、生体内で主にチオールと反応し、N-ヒドロキシスルフェンアミド(RSNHOH)を生成すると考えられている。しかし、この化学種は実験的に観測すらされていなかった。今回、独自に開発したbowl型立体保護基であるBpq基を用いることで初めて安定なN-ヒドロキシスルフェンアミドの合成・単離に成功した。さらに、生体反応の観点から重要なN-ヒドロキシスルフェンアミドの反応性について、提唱されている反応過程を検証した。得られたN-ヒドロキシスルフェンアミドに触媒量の希塩酸を作用させたところ、ただちに対応するスルフィンアミドへの異性化が定量的に進行した。一方で、中性、塩基性条件下において水を作用させたところ、非常にゆっくりと分解が進行し、対応するチオールが得られた。この結果は、チオールとHNOとの反応が可逆であることを示唆しており、生体内でN-ヒドロキシスルフェンアミドがHNOの貯蔵および輸送に関与している可能性を示す知見である。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件)
Acta Crystallogr., Sect.E 66
ページ: o20
Angew.Chem., Int.Ed. 49
ページ: 545-547
J.Phys.Chem.A 114
ページ: 884-890
J.Sulfur Chem. 30
ページ: 365-369
Chem.Lett. 38
ページ: 1188-1189