研究課題
生体反応中間体の中には、人工系では極度に不安定であるために研究が困難な化学種が多くある。特に、システイン残基が関与するレドックス制御機構については、不安定な反応中間体を含むものが多く知られている。本研究では、独自に開発したナノサイズのキャビティ型分子を活用することで、従来合成困難であったシステイン由来の生体反応中間体を安定化し、提唱されてきた反応機構を化学的に検証することを目的とした。前年度までの研究では、標的化学種本来の性質を調べるために、化学種に電子的摂動を与えにくい置換基を用いて検討してきた。今年度は次のステップとして、より生体に近い部分構造をもつモデル系の構築を行った。すなわち、従来よりサイズを拡大したキャビティ内に、システインユニットそのものを導入したモデル化合物を開発し、高反応性中間体の安定化について検討した。15個の芳香環から構築される新規な巨大キャビティ型モデル分子を合成し、シスチン誘導体を経ることにより、キャビティ内にシステインユニットを効率よく導入する手法を確立した。ヨウ化スルフェニル(RSI)は、システインの様々な酸化的修飾の中間体として注目されている高反応性化学種であるが、通常二分子間過程により容易に不均化を起こす。合成したキャビティ型システインチオールに対しN-ヨードコハク酸イミドを作用、させたところ、対応するシステインヨウ化スルフェニルが定量的に生成し、溶液中では比較的高い安定性を有することがわかった。これは、システインヨウ化スルフェニルの初めての観測例であり、立体保護基から遠く離れた部位に存在する活性官能基がこのように高い安定性を示したことから、キャビティ型反応場による周縁立体保護効果の有効性が実証された。
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