本申請研究は、極限まで伸張したオリゴアセチレン分子(OA)を合成し、その基本的な性質をアセチレンの数と関連付けて議論を行うとともに、ナノサイエンスの構成要素としての評価も併せて行なうものである。 OAは、1800年代から多くの合成化学者の興味を惹きつけてきた。これらは最も簡単なπ電子拡張系と考えられ、その合成と評価は基礎化学・科学として極めて重要であるからである。近年では炭素の新しい同素体として、アセチレンを無限に伸ばしたカーバインの構造が提唱されており、それと同定される物質が隕石の衝突によって形成されたクレーターの中から見出されたとの報告もなされている。しかしながら、OAのπ電子共役系が伸張すると、その速度論的不安定性は著しく増大し、単離は極めて難しい。OA類の速度論的不安定性は、固体中、あるいは高濃度の溶液状態において、ある分子のアセチレン部位に、もう一分子のアセチレンが接近することにより分子間の結合生成反応が生じ、ポリジアセチレン類似の生成物が容易に得られてしまうからであると考えられる。 このような背景の下、8個のアセチレンからなるOA(オクタイン)の両末端にポルフィリンを導入した分子を報告した。申請者はアセチレンの数が2個、4個、6個、8個有した化合物の系統的合成に成功しており、その性質を評価した。その結果、この物質群は実験室雰囲気下で著しく安定であり、対応する既報のOAの不安定性とは一線を画する。このことにより、金属ポルフィリンが終端に適した原子団であることが、明らかとなった。
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