研究概要 |
高い分子設計の自由度と多様な電子状態をもつ金属多核錯体は,金属イオンの相乗効果による特異な物性・反応性を示す.我々は,金属多核錯体の常磁性スピンに着目し,基底高スピン多核錯体の合理的合成法の確立・超常磁性を示す単分子磁石の合成と量子トンネルによる磁気緩和機構について研究を行い,多くの同核・異核金属多核錯体を合成した.本年度は,双安定状態を複数有する「多重安定性金属多核錯体の合成」焦点を絞り次の研究を行った。(1)スピン平衡鉄(II)錯体([Fe(dpp)_2]^<2+> dpp:三座配位子)と単量-二量化によるスピン転移を示すニッケル(II)-有機ラジカル([Ni(mnt)_2]^-)との複塩を合成しその磁性を測定した結果,本錯体が(i)175.5K,186.5K,194.0K,244.0Kで低スピン相(LT)から中間相(IM1,IM2,IM3)を通り高スピン相(HT)へと多段階で相転移する,(ii)光照射によりLT相とIM1相からHT相へ状態変化する多重安定性化合物であることを明らかにした.(2)混合原子価シアン化物イオン化架橋鉄-コバルト環状錯体を合成し,アセトニトリル溶液における物性について詳細に研究を行った結果,次のことを明らかにした.(i)結晶状態と同様に,溶液中でも鉄イオンとコバルトイオン間に電子移動が起こり,そのエンタルピー変化が固体に比べ3倍程度大きい.(ii)ルイス塩基であるシアン化物イオンと相互作用する酸を添加することにより,酸の添加量に応じて電子移動する温度が低くなることを見出し,これが酸添加により金属イオン酸化還元電位を変化させていることを電気化学と吸収スペクトル測定により明らかにした.
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