研究概要 |
分子設計の自由度が高く、多様な電子状態をもつ金属多核錯体は、金属イオン間の相互作用による特異な物性・反応性を示す。これまでに2つ以上の安定状態を有する多重双安定性を示す化合物に着目し、スピン平衡や電子移動が絡んだ機能性化合物の創製を検討してきた。本研究では、「多重安定性金属多核錯体の合成」に焦点を絞り、次の研究を行った。 (1)多重双安定性(外場応答性)金属多核錯体の合成:シアン化物イオンで架橋された金属多核錯体は、個々の金属イオンの電子状態や金属イオン間の電子的・磁気的相互作用により様々な物性を示す。本研究では、8個の鉄イオンがキューブ型に集積した鉄8核錯体[Fe^<III>_4Fe^<II>_4(CN)_<12>(tp)_8](tp=tris(pyrazolyl)borate)および環状四核構造をもつ錯体[Fe^<III>_2M^<II>_2(CN)_6(tp)_2(L)_2(L')_2]^<2+>(M=Ni,およびCo.LおよびL':キャップ配位子)を合成し、汎用性の高いシアン化物イオン架橋多核錯体の合成法を確立し、多重安定性について調べた。多段階の酸化還元挙動の観測や強磁性的相互作用に基づく基底高スピン状態の実現に成功した。 (2)熱と光による磁性変換:本研究において合成したシアン化物イオン架橋鉄・コバルト4核錯体について、その磁化率、X線構造解析、電子スペクトルの温度変化、赤外スペクトルの温度変化の詳細な物性測定により、温度により、熱により鉄(II)からコバルト(III)あるいはコバルト(II)から鉄(III)イオンへの電子移動が起こることを明らかにした。さらに、本錯体が、光照射により反磁性[Fe(II)-Co(III)]から,磁気異方性をもつ[Fe(II)-Co(III)]へ転移する系であることが明らかになった。
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