4つの遷移金属と4つの硫黄がサイコロの頂点の位置を占めるキュバン型クラスターは、ニトロゲナーゼに代表されるとおり、生体内において重要な役割を担っている化学種である。一方、その炭素類縁体の合成例は多くなく、そのほとんどがカルボニル配位子を含む系である。本研究課題では、機能性分子における機能発現部位として期待できる、イソニトリルを含む新規キュバン型四鉄クラスターの合成に取り組んだ。前駆体としては、[(C5H4Me)4Fe4(HCCH)2](PF6)と2当量のNBS(N-ブロモコハク酸イミド)との反応により合成される[(C5H4Me)4Fe4(HCCH)(BrCCBr)](PF6)と[(C5H4Me)4Fe4(HCCBr)2](PF6)の混合物を用いた。この混合物と過剰量のアニリンとの反応を行い、さらに酸化剤として[Cp2Fe](PF6)を添加することで、2つのメチンと2つのイソニトリルを含む2価陽イオンキュバン型四鉄クラスターの合成に成功した。また、単結晶X線構造解析により、そのキュバン型構造を明らかにした。キュバン型クラスターのアセトニトリル溶液を調整し、サイクリックボルタモグラム(CV)を測定することで、電気化学的挙動を明らかにし、多段階で酸化および還元を受けることがわかった。現在、電気化学の測定結果を踏まえて、酸化体および還元体を化学反応あるいはバルク電解により合成を試みている。
|