平成22年度は、これまでに引き続き、五員環と六員環が縮環したヒドロインダセン骨格を有するかさ高いアリールオキシド配位子、アリールチオラート配位子、アリールセレニド配位子、アニリド配位子などを用いて、種々の遷移金属錯体の合成と反応性の開拓を行った。かさ高いアニリド配位子を有する鉄二価クロロ錯体を原料として、ヒドリド試薬を用いた還元反応を行うことにより、鉄一価の架橋ヒドリド二核錯体を新たに合成した。単結晶X線構造解析によりヒドリドが2つの鉄原子間を架橋した特異な分子構造について明らかにした。また、一連のかさ高い単座配位子を有する直線形二配位構造の鉄二価錯体の磁気特性に関して、メスバウアー分光法やミュオン分光法を用いて詳細に研究し、低温において巨大な内部磁場を発現することを明らかにした。 また、平成22年度は、ヒドロインダセン骨格のパラ位に2つの異なるヘテロ原子である酸素原子と硫黄原子を導入したパラモノチオベンゾキノンを、酸化還元特性を有する新たなハードソフト混合型多座配位子として開発した。実際にチタン錯体を合成し、酸素側にチタンが配位したアリールオキシド配位子として機能することを見いだした。 二酸化炭素のヒドロシラン類を用いた還元反応についても、還元反応条件の詳細な検討を進めた。反応機構に関する理論計算では、ルイス酸であるトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランとカチオン性ジルコニウム中心の役割に関する知見を得た。モデル系とリアル系での計算結果を比較することにより、配位子のかさ高さが中間体の安定性に重要であるとの結果を得た。
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