研究概要 |
当初,Z偏光子を導入した測定を行う予定であった.ところが,実際にZ偏光子を導入した事例を聞いたところ,たしかに面に垂直な電場をもつZ偏光が得られるものの,Z方向に残る電場成分がわずかしかないため,光量が大幅に低下することがわかり,超薄膜レベルの極微量化学種測定は極めて困難になると予想された.そこで,Z偏光子を使わずにZ偏光測定に対応する測定・解析を実施するためのアイディアを練った.その結果,偏光ラマン分光法で薄膜の分子配向を決めるための,これまでにない厳密な理論構築を行った.すなわち,分子による光の吸収過程を光学異方性のある多層薄膜中での任意の位置での電場計算から定式化し,さらに散乱過程をローレンツの相反定理によって定式化した.配向はラマン散乱テンソルの実験室座標と分子座標の座標変換により厳密に表現した.これにより,対称性の高い官能基振動に関して,偏光ラマンスベクトル測定から精密にラマンバンドの強度を定式化できた.その結果,s偏光入射-p偏光検光測定(SP)およびPS測定の2つのスペクトルから,精密に分子配向を決定する手法を確立した.結果的に,Z偏光測定に相当する解析が可能となり,N=N伸縮振動など,赤外分光法では測定できない部位の解析ができるようになり,可視MAIRSや赤外MAIRSと組み合わせることで横断的な薄膜構造解析ができるようになった.結果的に,当初目指した非平滑界面の分子吸着薄膜の構造を解析するのにふさわしい分光法の基礎を構築することに成功した.
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