我々は、既にルテニウムあるいはロジウム錯体触媒存在下、適度な歪みを有する環状化合物であるシクロプロペノンあるいはシクロブテノン環の炭素-炭素結合切断反応において、ビスケテン中間体、およびビニルケテン中間体が生成し、これらのケテン中間体とアルキンあるいはアルケンとの交差カップリング反応による新規触媒的炭素骨格構築反応の開発に成功している。そこで本年度は、これらの知見を基に、反応性に富む重要な有機合成中間体であるケテン自体を基質に選び、ロジウム錯体触媒を用いるアルキンとの新規交差カップリング反応の開発を行った。 その結果、RhCl(PPh_3)_3触媒を用いた場合、エチルフェニルケテンと3-ヘキシンとの新規鎖状交差カップリング反応が進行し、ジエノン誘導体が立体選択的に収率92%で得られることを見出した。一方、ジフェニルケテンを用いた場合には、同じRhCl(PPh_3)_3触媒反応条件下、3-ヘキシンとの共付加環化反応が進行し、フラン誘導体が収率74%で得られた。 以上の結果は、ケテンの反応性の違いにより、アルキンとの反応で生成するロダサイクル中間体の構造が異なることを示している。すなわち、エチルフェニルケテンを用いた場合には、ケテンのC=C結合とアルキンとのロジウム活性種上での酸化的環化反応により、ロダシクロペンテノン中間体が生成し、続くβ-水素脱離反応および還元的脱離反応により、対応するジエノン誘導体が得られる。一方、ジフェニルケテンを用いた場合には、ケテンのC=O結合とアルキンとのロジウム活性種上での酸化的環化反応により、2-オキソロダシクロペンテン中間体が生成し、対応するフラン誘導体が得られると考えられる。
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