従来、オリゴ糖鎖合成の常識は、合成プロセスのどこかで、保護基の導入が必要であり、また、活性中間体の単離が不可欠なことであった。本研究では、このような常識を打ち破り、無保護かつワンポットでオリゴ糖を、位置ならびに立体選択的に合成することを目的とする。これは、申請者が世界に先駆けて開発してきた、水中における活性中間体の調製、および水中での完全立体選択的配糖化、という二つの基盤技術の融合により、初めて可能となるものである。 (1)糖オキサゾリン糖供与体の一段階合成 糖オキサゾリン誘導体は、酵素的配糖化反応における有用な中間体であることが知られている。しかし、その合成は、水酸基の保護、脱保護、アノマー位の活性化等の複数のステップを経て行われている。本研究では、2-アセタミド糖を、保護基を全く用いることなく、水中で、対応する糖オキサゾリン誘導体への変換する新しい方法論を開発する。 (2)新規糖供与体DMT配糖体の一段階合成 酵素的配当化に用いる典型的な糖供与体であるフッ化糖やp^-ニトロフェニル誘導体の合成は、これまで多段階の反応を経て合成されている。本研究は、トリアジン系脱水縮合剤であるDMT-MMを、無保護糖に作用させることにより、水中で、対応する糖供与体を一段階で合成する新しい手法を開発する。 (3)酵素触媒によるオリゴ糖の合成 配糖化反応は、本研究の根幹をなす部分で、特に綿密な実験計画が必要であり、以下の3つの観点から詳細な検討を行う。具体的には、活性化モノマーを最もよく認識する酵素触媒の探索、反応系内に混在するさまざまな化学種に対する酵素触媒の安定性に関する基礎的知見の集積、配糖化条件の最適化を行う。
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