研究概要 |
本年度は、2008年度中に合成されたハロゲン置換のテトラチアフルバレン型スピン分極ドナー(X=Cl, Br, I)に関し、サイクリックボルタモグラムや、一電子酸化種のESR測定を行ない、3種のハロゲン置換体の中でもジブロモ体(BTBN)が最も安定性に富み、詳しい物性実験に適していることを明らかにした。大量合成したBTBNを用いて、電界結晶化によるイオンラジカル塩の調製を目指したが、単結晶は得られなかった。しかし、BTBNの中性結晶が黒色をしていることに注目し、吸収スペクトルを測定したところ、1,400cm-1から10,000cm-1にかけて幅広な吸収体が観測され、分子間でCT相互作用が起こっていることが示唆された。実際、BTBNは単成分中性結晶であるにも関わらず、室温で□RT=9.0x10-4(Ea=0.28eV)と極めて高い伝導度を示す。また、この結晶の磁化率の温度依存性は、鎖間に弱い反強磁性的相互作用が働く擬一次元強磁性鎖モデル(Jintra=+6.5K, Jinter=-1.1K)で解析できることが分かった。中性結晶で磁性・導電性が発現し得るスピン分極ドナーが誕生したことになる。一方、ジセレナベンゾTTF型スピン分極ドナー(ESBN)のラジカル塩の電気伝導度を向上させる目的で設計したテトラセレナフルバレン型スピン分極ドナー(TSBN)を、ポリジセレニドを利用した合成法で合成した。さらにESBN中性結晶の結晶構造を解明し、磁化率の測定を行なった(Polyhedron 28, 1996、2009)。経費繰越のお陰で、所定のドナーラジカルを一通り合成し、それらの基本的性質を明らかにすることが出来た。
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