研究概要 |
本年度は以下に述べる2つの大きな成果が得られた。テトラチアフルバレン骨格に2個の臭素原子を導入したスピン分極ドナーBTBNの単成分中性結晶を、櫛形電極(間隙2・m)上で作製し、電場(E=5x104V/cm)を印加したところ、電場誘起の非線形伝導が観測された。この伝導が空間電荷制限電流機構に基づくことは、BTBN中性結晶のI-V特性におけるVのべき数の温度依存性(特性温度がTC=20K)、電流密度が一定となる電圧と電極間隔の二乗との間に、線形関係が認められることより証明された。また、この結晶は30K下の温度領域で、顕著な負性磁気抵抗(-76%,T=2K,H=5T)を示す(J.Am.Chem.Soc, 2010, in press)。すなわち単成分中性結晶に団場を印加することで導電性が発現し、その抵抗を磁場で制御できることを見出した。さらに、この結晶用いて作製した電界効果トランジスタは、両極性に固有のV字型の伝達特性を示した。一方、テトラセレナフルバレン骨格を有するスピン分極ドナーTSBNも合成された。電界結晶化法で作製されたTSBN 2ClO4塩は、良好な伝導性を示し(・・・・・=・・Scm-1)、4端子法により、伝導度の温度依存性が5Kまで測定でき、5Kおける負性磁気抵抗は-53%(H=5T)と求まった。以上の結果より有機分子がスピンを担った分子性結晶における磁性導電性連動系という新しい物性が確立したといえる。
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