研究課題
[Cu(dmdt)_2]は分子自身が分子中心に局在したd軌道と平面配位子(dmdt)上に広がったπ分子軌道とを持ちπ-d系としての特徴を備えたユニークな単一分子性伝導体である。昨年度は[Cu(dmdt)_2]の低温構造と物性を詳しく調べることを目的として、単結晶試料の合成、四端子伝導度測定、13Kまでの低温X線構造解析、ESR測定およびDACを用いた単結晶高圧下伝導度測定を行った。本年は、95Kに新たに見つかった磁気相転移を磁化率測定により詳しく調べ、第一原理計算に基づく電子状態計算およびバンド構造の計算とあわせ、物性の解明を目指した。磁化率測定は1.28mgの試料を用いて測定した。室温から100Kまでは、磁化率はCurie-Weiss則に従い、95Kの幅広いピークが観測された。Curie定数は0.375でS=1/2スピンの存在が示唆された。またワイス温度は-180Kとかなり大きな反強磁性相互作用を示した。97Kでの電子スピン共鳴より求めたスピン磁化率と静磁化率の値1.4x10^<-4>emumol^<-1>がよく一致しESRのシグナルがそれ以下で消滅することから、この相転移は反強磁性相転移であることが結論できた。第一原理計算による基底状態は反強磁性的であることを支持する結果である。またNi(tmdt)_2とCu(tmdt)_2は同形構造を持っているので、混晶系を合成し稀薄磁性合金[Ni_<1-x>Cu_x(tmdt)_2](x=0.1-0.27)を得た。x〓0.15付近の狭い組成比の範囲において、磁化率がおよそ20K以下で温度低下とともに急激に上昇する様子が観測された。しかしxT値は低温で急激に減少し、近藤系での一重項基底状態の発生と対応した。磁化率のこの特徴的な振る舞いは高磁場下で消失する。フォノン散乱による抵抗を測定抵抗値から差し引き磁気散乱による抵抗変化を推定した。その結果磁化率の温度変化に対応し、8-20Kで抵抗がlogTに比例することを確認できた。分子性Kondo系が実現できたと考えられる。
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