これまでに合成した(R)-3-ヒドロキシブタン酸と(S)-アスパラギン酸からなる周期共重合体を用いて、生分解性誘導スイッチ機能の発現をより詳細に評価した。昨年度の成果より、側鎖をフリーのカルボン酸とした(S)-アスパラギン酸ユニットに有機溶媒中で炭素数6のアルキルアミンをイオンコンプレックスの状態で導入すると、酵素分解反応を抑制できること、また、このイオンコンプレックス状態で導入したアルキルアミンは、試料を酸性条件下におくことによって容易に脱離でき、酵素分解性を再度獲得できることを確認している。本年度は、導入するアルキルアミンの炭素鎖数を変えて、イオンコンプレックスを形成し、そのアルキル鎖長と生分解性スイッチ機能の発現に関する評価を行った。炭素鎖数4以上のアルキルアミンを導入した場合はいずれにおいても、アスパラギン酸側鎖のカルボン酸とイオンコンプレックスを形成し、酵素による分解反応を抑制することができた。しかしながら、炭素鎖数10以上のアルキルアミンを導入した場合、pHあるいは緩衝溶液の塩濃度を変化させても、酵素分解反応の再発現はできなかった。これは、長鎖アルキルアミンが水溶液中へ溶出しないためために、ポリマー分子鎖からの脱離ができなかったためと考えられる。また、アルキルアミンに変えて、アルキルジアミンを導入した場合、主にポリマーの分子鎖間でイオンコンプレックスを形成し、有機溶媒中において三次元ネットワーク構造をとったゲル状物質を得ることに成功した。この結果は、ポリマー鎖そのものの分子量が充分に大きくなくとも、固体材料としての利用を可能にする新たな方法論となることを示している。
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