すべてのコドンを解読するために大腸菌内には41種類のtRNAが存在する。個々のtRNAを大腸菌内で控えめに過剰発現させ、固相化プローブ法で精製するために、tRNAを構成的に発現するプラスミドを計41種類作製した。このうち、各アミノ酸につき一種類のtRNA、すなわち20種類のtRNAと、開始tRNAの計21種類のtRNAを、固相化プローブ法を用いて精製することができた。得られたtRNAをもう一度調合して最小tRNAセットを作成した。このセットを精製されたタンパク質性因子が再構成されたタンパク質合成系、いわゆるPUREシステムに加えて、タンパク質を合成させた。コントロールとして、コドンを最小化していないGFP遺伝子を用いた場合、未分画のtRNAを用いた場合にはタンパク質が合成されるのに対し、最小tRNAセットを用いた場合は、タンパク質が合成されなかった。一方、昨年度、作製したコドンを最小化したYFP遺伝子からタンパク質を合成させると、未分画のtRNAを用いても、最小tRNAセットを用いてもタンパク質が合成された。このことは遺伝暗号表に、どのアミノ酸にも指定されていない空きコドンが生じていることを意味している。最終的に空きコドンを解読し、かつ非天然アミノ酸を結合したtRNAの調製まではできなかったが、論理的には、複数の非天然アミノ酸をタンパク質に導入できる系が構築できたと考えられる。今後、メタン生成古細菌のピロリシルtRNA・合成酵素の基質となることが確かめられたεにアジド基やプロパルギル基を持つリシンアナログを結合したtRNAを調製して、実際に多種類の非天然アミノ酸が導入できることを示したい。またAUAだけを解読できる古細菌のイソロイシンtRNAのアンチコドンにアグマチンで修飾されたヌクレオチドを発見したので、この修飾ヌクレオチドをtRNAに導入することで、さらに多くのコドンを非天然アミノ酸に置き換えたい。
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