研究概要 |
(a)ニキビ菌Propionibacterium acnes由来の亜硝酸還元酵素(PaNIR)の構造・機能の研究 PaNIRは本来膜タンパク質であるが、前年度は可溶性タンパク質部分(ΔPaNIR)の組換体を作製し、結晶構造解析に成功していた。今年度は、さらにPaNIRの膜貫通部分を持った全体のタンパク質を、大腸菌を用いて発現させようとしたが成功しなかった。同時に、ニキビ菌の大量培養を行い、直接、PaNIRを単離しようともしたが、これも成功しなかった。PaNIRそのものを得る実験はいずれも成功していないので、膜タンパク質と考えられるこの酵素自体を得ることは難しいのであろう。 (b)海洋性好冷菌Pseudoalteromonas haloplanktis由来の亜硝酸還元酵素(PhNIR)の構造・機能の研究 まず、PhNIRのタンパク質内電子移動反応を、パルスラジオリシスにより測定した。それによると、ヘムドメインのヘムからタイプ1銅への電子移動反応速度は1.0×10_4s_<-1> (pH6.0)、次いでタイプ1銅からタイプ2銅への反応速度は基質存在下で、1.0×10_3s_<-1> (pH7.0)であった。また、PhNIRへの電子供与タンパク質の一つは、アミノ酸90残基あたりc型ヘムを1つ含むヘムタンパク質であった。この菌株は既にゲノム解析が行われているので、そのアミノ酸配列の相同性検索からPseudomonas stutzeri由来のシトクロムc_4の一部に29%の相同性があることが分かった。すなわち、シトクロムc_4は190残基のアミノ酸からなり、2つのヘムを有している。190からなるアミノ酸残基配列で100番以降の90残基が、この好冷菌からのシトクロムcと相同性を持つので、我々はこのシトクロムcをシトクロムc_<4A> (Cyt c_<4A>)と名付けることとした。新しいタイプのシトクロムcの発見である。このCyt c_<4A>の還元型スペクトルのピークは、414.5 (Soret帯)、520.5(β帯)、549nm(α帯)であり、酸化型は407.5nm (Soret帯)であり、E_<1/2>は+230mV (vs NHE, pH6.5)であった。また、PhNIRへの電子供与活性は、pH6.5においてAchromobacter xylosoxidans由来のシトクロムc_<551>とNIRの活性と比べて、ほぼ半分であった。この結果は、電子伝達の効率としてはそれほど不適切な値ではないと考えられた。現在、このシトクロムc_4の分子構造を明らかにするために、X線結晶構造解析を進めている。
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