本研究では、構造が均一なヒト型糖鎖をもつ糖タンパク質を、大腸菌発現法と有機合成法を組み合わせて精密に合成する方法の確立を目指す。そして、糖鎖を改変でき、かつ、タンパク質への糖鎖結合位置を自在に制御できる方法の確立を目指す。本研究では、現状の方法を更に発展させ、天然型の糖鎖化EPOと抗体であるIgGlのFc部位の精密合成を目指す。Fc部位は、229位から444位までの長鎖ペプチド鎖で構成され、297位にヒトの複合型糖鎖を有する。平成20年度は、特にIgGlのFc部位の合成を中心に検討した。まず、ヒトFc部位の321から441位までのペプチドを大腸菌で発現する検討から行った.発現させる321-441は、321位をシステイン残基として発現させる必要がある。そこで、320位に相当する位置にメチオニンを入れ、そのN末端側にヒスチジンが10個連なったHis-Tagをコードする配列をpET16bに挿入し、最終的に大腸菌を用いて発現した。その結果、N末端側にHis-Tagをもつペプチドを得ることができた。次にN末端側のHisTagを320位に相当するメチオニンの位置で切断する検討をおこなった。臭化シアンで処理することでHisTagがメチオニンの位置で切断され、目的とする321位にシステイン残基をもつペプチド鎖を大腸菌発現により得ることに成功した。次に、293位から320位に相当する糖ペプチドチオエステルの合成をおこなった。糖鎖としては、非還元末端にガラクトースを有する2分岐複合型糖鎖を選び、当研究室で確立した糖ペプチドチオエステルの合成法を利用して検討した。その結果、目的とする糖ペプチドチオエステルを純度よく得ることに成功した。大腸菌発現、および糖ペプチドチオエステルの合成が完了したので293から320までの糖ペプチドセグメントと大腸菌発現した321-444のペプチド鎖を連結する検討をおこなった。種々検討をおこなったところ、これら2つのペプチドセグメントが連結した生成物を得る事ができた。しかし、収率や精製については、今後更に検討が必要であるので、平成21年度に更に検討する予定である。
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