節足動物や軟体動物の血液中に存在するヘモシアニンは、分子状酸素を可逆的に吸脱着し、酸素の運搬や貯蔵を司るタンパク質である。ヘモシアニンの活性中心には、チロシンの酸素化やカテコールの酸化を司るチロシナーゼと同様のペルオキソ二核銅(II)活性種が存在するが、活性中心がペプチド鎖に覆われた構造をしており、通常は外部基質に対する反応性を示さない。本研究では、軟体動物(マダコ)由来のヘモシアニンに尿素などの変性剤を作用させることによって、チロシナーゼと同様の酸素化機能を発揮すること見出し、その分光学的特性や酸化活性種の同定、および酸化反応機構の詳細を明らかにした。本年度は、上記の軟体動物とは高次構造が全く異なる節足動物(ワタリガニ)由来のヘモシアニンに焦点をあて、5種類のサブユニット(単量体)とその6量体の単離・精製を行い、それぞれの分光学的特性(紫外可視吸収スペクトル、CDスペクトル、ESRスペクトルなど)およびチロシナーゼ活性について検討を行った。その結果、各サブユニット(単量体)の触媒活性は6量体の場合よりも高く、また、各々のサブユニット間にも触媒活性に大きな違いがみられたことを明らかにした。更に、それぞれの単量体に含まれる酸化活性種やフェノール類の酸素化反応の反応機構についても検討し、芳香族求電子置換反応機構で進行することを明らかにした。
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