研究最終年度である22年度は、有機半導体と化合物半導体を用いたデバイスを作製する際に、電気的特性と光学的特性の両面からアプローチした。まず、有機半導体と化合物半導体との融合デバイスを作製する上で重要なパラメータの一つである移動度μに着目した。有機トランジスタ、有機太陽電池、有機ELなど電子デバイスの高性能化が要求される電子デバイスでは、移動度μを大きくすることが不可欠である。本研究で主に用いている酸化亜鉛系材料の移動度はμ>>1であり、結晶性薄膜であることからバンド伝導を示唆する結果が得られた。しかし、多くの有機半導体薄膜の移動度はμ<<1であり、膜が多結晶であることからホッピング伝導によって支配されていると考えられているのが現状である。有機半導体と化合物半導体を融合した高性能電子デバイスを実現するためには、比較的移動度の高い化合物半導体の電気的特性に有機半導体特性を合わせこむことが不可欠である。 高移動度の有機結晶中のキャリア移動を考える場合、分子のパッキング構造はもちろん重要なパラメーターとなるが、その結晶内の分子軌道の重なりから形成されるエネルギーバンド構造こそが、有機結晶中のキャリア移動を考える上で最も重要なパラメーターであり、本研究では、その有機半導体薄膜中のエネルギーバンド構造を考慮に入れるというデバイス設計指針を基盤にデバイス作製を行い、その成果としてバンド伝導機構を有する有機トランジスタを作製することに成功した。 さらに、有機半導体と化合物半導体のそれぞれの光学的特性を活かすために、有機半導体と化合物半導体を用いた太陽電池を作製する上で重要なパラメータの一つである吸収や透過率のチューニングを行い、バンドギャップの大きい透明半導体とバンドギャップの比較的小さな有機材料を用いて太陽電池を作製し、光合成促進機能という新たな特性を有する太陽電池の作製に成功した。
|