研究概要 |
本研究では,系を特徴づける分子レベル,ナノレベルあるいはそれ以上のレベルの階層同士が機能面で絡み合っている系を,「機能階層系」と定義する。本研究ではこの「機能階層化」をキーワードにした材料の探索を,薄膜合成や超高圧合成などの特殊反応条件を活用し行う。本研究では特殊反応場として、(1)超高真空を用いた単結晶薄膜合成,(2)超高圧,(3)水熱合成およびナノ多孔体構造の利用に加えて、(4)溶融塩中での電解合成を活用する。探索の対象は、超伝導体の特性、特に転移温度の制御、ナノメートルサイズの無機分子をビルディングブロックとしたナノ階層構造の創製、ナノあるいはミクロ多孔体と微粒子の新しい複合化構造の構築などである。これにより、従来行われてきた材料の階層構造構築の研究から大きく踏み出し、「機能階層系」の設計の学理を構築することを試みる。 バルクCrNは270-280K付近に構造転移を伴う反強磁性転移点を持つが、α-Al203(0001)基板に成長したエピタキシャルCrN薄膜の転移温度が、膜厚の影響を受けて50Kもの大きな変化を示すことを見出した。ある膜厚より薄い場合、転移温度が高温にシフトすることから、転移後の歪んだ構造がエピタキシーの効果で安定化しているものと推定され、薄膜化により磁気転移温度が大きく変化した顕著な例とみることができる。一方、立方晶MnNは、CrN,VNなど他の立方晶-窒化物に比し異常に大きな格子定数をとるがその原因は不明である。立方晶MnNは、従来、正方晶のMnNとの混合物としてしか得られていないため、詳しい解析がなされていない。本研究で、薄膜合成の手法を用いることにより立方晶MnNの単相合成に初めて成功した。電気伝導測定の結果、立方晶MnNが金属電導を示すことが初めて確認された。今後この単相薄膜試料を用いてさらなる解析を進める。一方、ペロブスカイト構造を基本構造にもつ新規な酸化物BaSbO3を初めて合成できた。これは溶融塩中での電解合成により可能となった。この化合物は高い超伝導転移温度をもつBa-K-Bi-O系酸化物の関連物質であり、今後その物性に興味がもたれる。
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