研究概要 |
弱磁場中で熱活性によって磁壁が移動するクリープ領域において、磁壁移動速度vと外部磁場強度Hの関係はIn v ∞ H^<-μ>という関係を持ち、random fieldの場合はスケーリング指数μ=1、random bondの場合はμ=0.25であることが知られている。垂直磁化容易軸を持つ(Ga, Mn)Asに対しては、μ=1.2とμ=0.25の二つの値が報告されている。 本研究では、垂直磁化容易軸を持つ(Ga, Mn)Asにおいて75〜105Kにおけるμを実験的に決めた。膜厚30nmのGa_<0.95>Mn_<0.05>Asは、MBE法を用いて基板側から100nm GaAs/75 nm In_<0.072>Al_<0.928>As/75 nm In_<0.133>Al_<0.867>As/75 nm In_<0.183> Al_<0.817>As/75 nm In_<0.231>Al_<0.769>Asバッファ層を介して半絶縁性GaAs基板上に成長した。磁化測定からそのキュリー温度T_cは131Kである。磁区観察には極磁気光学カー効果を用いた。初期磁化配置として面直下向きに磁化を揃えた後、面直上向きに大きさを変えながら外部磁場を印加することで磁壁移動速度の外部磁場依存性を調べた。実験結果にμの値をパラメータとしてスケーリング関数でフィッティングを行うことによりμの値を決めた。90K以上でその値は1.4であり、random fieldの場合とほぼ一致する。これはバッファ層を(In, Al)Asを多層構造としたためクロスハッチが磁壁ピンニングにほぼ影響を与えず、結晶中のMnイオンがピンニング・センターとして働いているためと考察できる。90Kより低い温度ではμは2よりも大きな値をとり、低温では磁壁を移動させるのに大きな磁場が必要であるため、クリープ領域ではなく出ピニング領域に入っていることを示唆する。 これらの結果は、磁壁移動機構の理解に資するのみならず、磁壁移動を利用した素子の信頼性の評価に役立つものと期待される。
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