研究課題
スピントロニクス分野において、スピンの緩和現象は巨大磁気抵抗効果(GMR)をはじめとする種々のスピン伝導機能や、それらのダイナミクスの理解と制御に直接関係する重要な研究課題である。本研究では、これまでほとんど研究されていなかったスピン緩和に及ぼす低次元ナノ構造化(ナノ粒子化や超薄膜化等)の効果を系統的に調べる。これにより、どのような低次元ナノ構造においてスピン緩和時間が増大するのかを明らかにするとともに、そのメカニズムの解明を狙う。本年度は、まずCoナノ粒子を含むCo-C60グラニュラー薄膜の物性を詳細に調べ、その特異なトンネル磁気抵抗効果に及ぼすスピン蓄積の効果を検討した。その結果、Co-C60グラニュラー薄膜では、界面のスピン分極等の影響が顕著であり、その効果に隠れて、明瞭なスピン蓄積効果やスピン緩和時間の増大は観測されなかった。続いて、超薄膜物質の新規作製という観点から、エピタキシャル成長したNiおよびFe超薄膜を作製し、異常ホール効果等の磁気伝導効果を測定した。異常ホール抵抗の面内抵抗依存性は、超薄膜特有の振舞いを示すことが示唆された。Fe超薄膜の作製とその構造の熱安定性の実験においては、MgO等の格子不整合が小さくない下地の上では、超薄膜構造がナノ粒子配列よりも著しく構造不安定であることが分かった。良質な超薄膜試料の作製には、格子不整合を十分小さくする必要があることを示す結果である。また、2重トンネル接合の磁気抵抗効果は、超薄膜中のスピン緩和の定量評価において重要である可能性があるため、モデル計算によって磁気抵抗効果とスピン緩和の関係を調べた。2重トンネル接合では、中間電極内でのスピン蓄積が系全体の磁気抵抗効果を大きく変化させることが分かり、磁気抵抗測定によってスピン緩和を定量的に評価する表式を得た。
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Chem. Phys. Lett. 470
ページ: 244-248