本研究では、理論予測されているハーフメタル磁性体に対して、そのハーフメタル性を支配するフェルミエネルギー(E_F)近傍の電子構造を維持したままで、全電子構造を制御して飽和磁気モーメントを低減化させる材料設計手法を開拓することにより、高スピン偏極特性、かつ低(ゼロ)磁気モーメント性を併せ持つ、高機能なスピン制御材料を創製する。さらに、それらの材料で構成されるナノヘテロ構造を用いて、新規なデバイス機能を探求する。 Fe系反弾磁性ホイスラー合金Fe_2VSiのエピタキシャル薄膜を用いて、基板との格子不整合歪みが磁気特性、電子構造に及ぼす影響を調べた。面内引張歪みを用いることにより、反強磁性ネール温度の大幅(50%)なエンハンスが生じることを初めて見出した。また、バンド計算に基づく理論的考察から、このエンハンス効果が、バンド・ヤーンテラー効果に伴うフェルミ面近傍における状態密度の変調によるものであることを明らかにした。この結果は、反強磁性ホイスラー合金のスピントロニクス応用の可能性を広げるための重要な知見である。 また、ハーフメタル反強磁性体の有力候補である二重ペロブスカイトSr_<2-x>La_xVMoO_6に対して、La置換量xを変えることによるキャリアドープ効果を調べ、完全ハーフメタル化のための電子構造制御への指針を明らかにした。合わせて、そのエピタキシャル薄膜の作製が可能であることを見出し、デバイス機能探索のためのナノヘテロ構造の作製検討を進めた。
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