本研究課題は、STM探針を装着した電子顕微鏡試料ホルダーと収束電子回折(CBED)法を併用することにより局所歪みが電気伝導に与える効果を高精度で明らかにすることを目的とする。昨年度までに、CBED図形の透過ディスクに現れるHOLZ線図形から格子定数および湾曲歪みを高精度で決定する手法の開発を完了し、直径約10nmの任意の試料領域において格子定数を10^<-4>~10^<-5>nmの精度で決定することが可能となった。しかしながら、格子歪みの大きい界面近傍10nm以内の領域では明瞭なHOLZ線図形が観察できず、歪みを正確に評価できないことが判明した。この問題の解決のため、今年度は以下の課題の実施を行った。 (1) ナノビーム回折法による界面近傍の歪み分布計測法の開発 HOLZ線が明瞭に観察されない界面近傍領域においても、ナノビーム回折図形には鋭い回折点を示すため、回折点位置の定量評価により格子定数の決定が可能となる。本研究では、HOLZ線法と同程度の解析精度を得るため、高次ラウエ帯反射をもちい手法を開発した。高次ラウエ帯反射の現れる高角側は電子顕微鏡のレンズの歪みの影響を大きく受けるたあ、本手法ではレンズの歪みパラメーター正確に較正して格子定数の決定を行う。これにより界面近傍10nmの領域において10^<-4>nmの精度での格子定数の決定を可能にした。また、この解析を自動的に行うソフトェアの開発も行った。 (2) 超高圧電子顕微鏡をもちいた格子歪み解析 電子顕微鏡観察用に薄片化した試料は、表面緩和によりバルク状態とは異なる格子歪みを有する可能性がある。薄片化の影響を最小限に抑えるために表面積-体積比がなるべく小さい厚膜試料をもちいた歪み解析を検討した。この結果、超高圧電子顕微鏡により700nmを超える試料厚さにおいても、HOLZ線解析に十分な回折図形が得られることを見出した。
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