研究概要 |
現在のコンピューターは,電源を切るとそれまでの「記憶」が失われる。そのため,情報を磁気記録メモリー(ハードディスク)に記録し,電源を入れた際に,その情報を読み込むことが必要となり,起動に時間を要する。この問題を回避するため,不揮発性のメモリーや演算素子の開発が急務となっており,スピントロニクス分野の研究に大きな期待が寄せられている。材料面では,磁性金属に加え,強磁性を示す酸化物や半導体が設計・開発され,演算素子への展開が期待されている。一方,有機材料のスピントロニクスへの応用も注目を集めている。長距離のスピン輸送能が期待されることに加え,簡便な方法で回路の描画ができることも期待を膨らませている。 本年度は、ハーフメタルのLa0.67SO.33rMn03エピタキシャル膜を作製し、電子ビームリソグラフィーによってギャップ間隔200nm程度の電極に加工した。ペンタセンやBTQBT (bis (1,2,5-thiadiazolo)-p-quinobis (1,3-dithiole))を蒸着して、極低温下で、電気抵抗の磁場依存性を計測し、スピンバルブ特性を確認した。磁気抵抗比は、5Kで約30%であり、温度およびバイアス電圧の上昇ともに小さくなった。磁気抵抗比は、薄膜の結晶性、バイアス電圧、測定雰囲気の影響を受けることが判った。低分子系の有機材料で横型のスピンバルブ特性を確認したのは本研究が最初であり、分子設計により特性を制御できることを示した点で意義が大きいと思われる。
|