研究概要 |
現在のコンピューターは,電源を切るとそれまでの「記憶」が失われる。そのため,情報を磁気記録メモリー(ハードディスク)に記録し,電源を入れた際に,その情報を読み込むことが必要となり,起動に時間を要する。この問題を回避するため,不揮発性のメモリーや演算素子の開発が急務となっており,スピントロニクス分野の研究に大きな期待が寄せられている。材料面では,磁性金属に加え,強磁性を示す酸化物や半導体が設計・開発され,演算素子への展開が期待されている。一方,有機材料のスピントロニクスへの応用も注目を集めている。長距離のスピン輸送能が期待されることに加え,簡便な方法で回路の描画ができることも期待を膨らませている。本年度は、以下の課題に関し成果を得た。 1.非局所測定法による有機材料へのスピン注入の確認 これまでの実験では、強磁性電極/有機材料/強磁性電極のサンドイッチ構造を用いた磁気抵抗変化の計測が中心であったが、この方法では、界面の効果を排除することができず、有機材料内をスピンが輸送されていることの証明が難しかった。今年度は、微細加工技術を駆使し、4つの電極からなる素子を構成し、分子性導体単結晶を試料として、スピンの注入を確認した。 2.Co微粒子を用いたスピンバルブの作製 これまでは、酸化物ハーフメタルを電極としてスピンバルブ素子を作製しているが、より広範な応用を目的とし、アルミニウムを基板電極とし、その上に、コバルトと有機材料を共蒸着した層を作製することにより、スピンバルブ特性を発現することを見いだした。この結果は、フレキシブルな磁気抵抗効果素子の作製への糸口になると期待される。
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