本研究では、ターゲット上磁場が従来の約20倍強力な強磁場スパッタ法のプラズマの特徴を明らかにし、磁場分布などを変えた時のプラズマの変化を調べるとともに、種々の機能性材料の低ダメージ・高品位成膜を行っている。まず、プローブ法によりプラズマ診断を行い、電子温度、電子密度、空間電位などを求めた。さらに、その空間分布を調べたが、ターゲット付近では電子温度が高いために測定が困難となった。そこで、高インピーダンスプローブによる浮遊電位測定を行った。その結果、ターゲット上のかなり広範囲に浮遊電位の高い領域が観測された。これは高エネルギー電子の存在を示唆するが、磁極を下げて磁場を弱めたところ、その領域が狭まった。すなわち、強磁場により高エネルギー電子がターゲット付近に捕捉されていると考えられる。また、ガス圧が低いほど、浮遊電位分布の高い領域が広範囲に存在した。これは、中性ガス分子やイオンによる散乱を受けにくいためと考えられる。 一方、これらのプラズマ診断の結果は、形成されるプラズマが活性であることを示唆している。これは、反応性スパッタに有利と考えられるので、反応性スパッタへの適用性を探るために窒化物の成膜を行った。その結果、これまで単結晶や単結晶薄膜の報告のないMn_3CuNの配向度の非常に高い膜が得られた。さらに、窒素分圧などの条件を変えることで窒素欠損が制御できることがわかり、窒素欠損のほぼない薄膜が得られた。今後、これらの膜の磁気異方性の評価を行うことで、この系で注目されている磁気体積効果を理解する上で重要な知見が得られると期待される。 また、低ダメージ成膜という本手法の特徴を活かして、多層膜の界面拡散層厚みの制御にも取り組み、具体的には次期LSI製造用極端紫外線(EUV)露光用多層膜ミラーとして期待されるMo/Si多層膜を作製して、様々な成膜実験により界面ラフネスを抑える条件を探った。
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