本研究で開発した強磁場スパッタ法のプラズマの特徴を明らかにする目的で、プローブ法による浮遊電位分布測定を行った。これまで、ターゲット上に広範囲に高エネルギー電子が捕捉されることが分かったが、さらに幅広くガス圧依存性等を調べ、高真空側で昨年度見出したシェル状分布がより低圧領域でも維持されることが分かった。また、反応性スパッタへの展開に重要な窒素混合ガスでの浮遊電位分布も調べ、純アルゴンとほぼ同様であること等が明らかになった。さらに、磁性ターゲット上でも浮遊電位分布を測定し、ターゲット上の漏えい磁場が十分に強いために放電特性の低下が小さいことを示す結果が得られた。一方、新たに磁極を対向型とした場合の強磁場スパッタ装置の放電特性評価を行った。特に、単極型では高真空側で放電電流が低下するのに対し、同等の真空度でより大電流での放電が可能だと分かった。これは、ターゲット間に2次電子を効率的に閉じ込めることが可能なためと考えられる。これを反映して、単極型でスパッタレートが低下する高真空領域でも、対向ターゲット型では高いまま維持できることが分かった。 一方、昨年度に引き続き、反応性スパッタにより窒化膜を作製した。特に、これまでのMn_3CuN薄膜の知見に基づき、Ag置換した薄膜を作製した。この系は新たな標準抵抗材料として期待されているが、本手法により抵抗率の温度係数が小さい薄膜が得られた。さらに、一般に作製が困難な窒化炭素膜にも取り組んだ。本手法では、高真空側でも炭素の成膜レートが比較的高いことが分かり、強磁場の効果と考えられる。また、対向型で得られた窒化膜は、窒素含有量が単極型を上回ること、基板との密着性にも優れていること、などが明らかになり、今後の展開への道筋がついたものと言える。
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