今年度は、主に研究に使用する装置の広帯域化・高感度化を目的として研究を実施した。現有する市販の原子間力顕微鏡(AFM)装置をベースとして、高感度化を図るための光学系およびカンチレバーの変位検出回路系を新たに設計し、検出帯域16MHzの装置とし、またノイズレベルも、液中において熱振動によるピークが検出できる理論限界に近いところまで最適化した。磁気変調の広帯域化に関しては、帯域を制約している主要因が電流経路中の誘導要素と容量要素からなる共振であることがわかった。これを抑えてより広帯域化するためには電磁石のインダクタンスを低下させるしかない。しかし、これは磁気力の低下を招く。そこで、コイルを空芯型に改良してインダクタンスを従来の10分の1以下にし、その分、コイルの導線をカンチレバーに接近させて、導線から直接及ぼされる磁場でカンチレバーを励振できるようにした。その結果、およそ3MHz程度までのカンチレバー励振が可能となった。この装置を用いて計測を行ううえで、高周波域でのカンチレバーの高次振動モードを用いるが、解析の過程でこれらの高次振動モードの実効的な弾性定数の値が必要となる。しかし、これらの値に関しては単純化したモデルに基づいた理論計算が提示されているだけで、本研究のように現実的な形状のカンチレバーの、しかも液中環境での値は理論・実験のいずれでも提示されていない。そこで、実験的にこれらを求める方法について検討した。本研究では、磁気力によって、カンチレバー振動の正確な伝達関数が求められることと、熱振動による各振動モードのエネルギーが等分配則にしたがうことの2点を利用して、光てこ法に不可避な、高次モードでの検出感度の不定性を排除する解析スキームを考案した。これまで述べたような、一連の成果については、1編の論文と、国際学会を含むいくつかの学会などで発表している。
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