研究概要 |
本研究の目的は,背景空間が時間とともに変化する環境での幾何計算アルゴリズムを,数値誤差に対してロバストな計算手続きを伴った形で開発するとともに,それを現実問題へ応用することである.本年度は,錯視効果を利用したエッシャー芸術に焦点を合わせて,錯覚がもたらす時間・空間のゆがみをモデル化し,エッシャー風アートを創作する三つの計算機支援システムを構築した.その第一は,エッシャーの作品「空と水I」に使われているタイリングパターンの自動生成である.これは,空に置く図形と水に置く図形を与えると,コンピュータが間を埋めて,上から下へ一方の図形が次第に背景に溶け込み,もう一方の図形が背景から浮かび上がるパターンを生成する.その第二は,一つの図形を与えると,それに近いタイルで平面を埋め尽くすことのできるものの自動探索である.これによって,動物などの図形に近いタイリング可能図形を効率よく求めることができるようになった.その第三は,不可能モーションの設計法の確立である.絵が持つ奥行きの任意性を利用して,人の知覚に反する立体を作り,不可能に見える動きを加える汎用の方法を開発した.これらの研究を通して,錯覚がもたらす空間のゆがみを扱うことのできる幾何計算法を開拓することができた.
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