研究概要 |
本研究の目的は,背景空間が時間とともに変化する環境での幾何計算アルゴリズムを,数値誤差に対してロバストな計算手続きを伴った形で開発するとともに,それを現実問題へ応用することである.本年度は,人の単眼立体視に伴う奥行き知覚の時間変化に着目して,奥行きの知覚空間と実空間との差がもたらす不可能モーション錯視についての研究を継続した.昨年度は,斜面を重力に反して玉が転がりながら上って行く錯視を,斜面を支える支柱の見かけの長さがもたらす斜面の主観的高さを利用して設計する手法を開発したのに対して,本年度は支柱がなくても同様の錯視が生じる立体を発見することができた.この立体を回転させるとき,見た人には立体が時間と共に変形していくという錯覚をもたらすこと,およびこの錯覚が,網膜像をできるだけ単純な立体として解釈する人の知覚の性質から説明できることを明らかにした.そして,この理論に基づいて新しい立体錯視を予測し,予測どおりの錯視現象が生じることを試作立体によって確認できた.これら一連の立体を反重力すべり台と名付け,それの無限に多くのバリエーションを制作することのできるロバストな設計アルゴリズムも構築した.これは,立体形状設計技術,コンピュータグラフィックス技術,線画解釈技術を組み合わせたものである.今後は,このアルゴリズムを使ってさらに多くの不可能モーション立体を制作し,実際の立体とその知覚の時間変化との関係を明らかにしていく計画である.
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