研究概要 |
シリコンを添加ダイヤモンドライクカーホン膜(以下,Si-DLC膜)は非常に低い摩擦係数を示すことで注目されている.Si-DLC膜の摩擦係数は膜中のシリコン含有量の増加と共に減少するが,シリコン含有量の増加と同時に膜はポリマー化され膜の硬度は減少する.一般的に,摺動の際,摩耗率は硬さに反比例するので,膜が軟化することは膜の摩耗寿命の短縮を意味する.Si-DLC膜の低摩擦特性は摩擦試験中に生成されるシリコン酸化物の摩耗粉に深く関係があることが知られている.このことから,低摩擦,高硬度を併せ持つ膜を開発するにあたり,Si-DLC膜の表面に酸素プラズマを照射することで,膜の最表面に形成されるシリコン酸化物の量を制御することで,摩擦係数を制御することが可能であると考えられる.本年度は,イオン化蒸着法を用いて,Si-DIC膜を作成するし,作成したSi-DLC膜の膜構造,組成,摩擦特性を明らかにすることを目標に研究を行った.また,超低摩擦特性を有するSiDLC膜の開発およびシリコン含有量の増加による膜の硬度の低下を防ぐことを目標で,Si-DLC膜表面を酸素プラズマ処理する方法を試した.Si-DLC膜は,イオン化蒸着法によって,成膜圧力0.4Pa,フィラメント電流30A,アノード電流0.5A,リフレクター電圧10V,バイアス電圧・1.5kV,バイアス電圧の周波数1kH,デューティー比25%の条件で作成した.原料ガスにはトルエン(C7H8)とテトラメチルシラン(Si(CH3)4)の混合ガスを用い,その流量比を変えることで膜中のシリコン含有量を制御した.基板は(100)面の単結晶シリコン板を使用し,基板の前処理として,バイアス電圧一2.OkVで20分間のAr+イオンボンバードメントを施した.酸素プラズマ処理はSi-DLC膜を作成した後,同じ装置を用いて試料を大気にさらすことなく,ガス圧力0.8Pa,基板バイアス電圧-2.OkVの条件で,30秒および300秒間行った.また比較のためにシリコンを含まないDLC膜も同装置を用いて作成した.以下に得られた主な結果を示す。 (1)Si-DLC膜表面のシリコン酸化層は酸素プラズマ処理にナノメータオーダLーで制御できる。 (2)酸素プラズマ処理により3〜7at.%のシリコンを含有したSi-DLC膜の摩擦係数は約0.02まで減少する。 (3)酸素プラズマ処理により生成される数nmの酸化層により膜表面の硬度は僅かに減少するが,摩耗トラックの硬度は酸素プラズマ女。 (4)摩擦係数の低い試料ほど移着膜の量が多く,グラファイト化が進んでいる。 以上の結果から酸素プラズマ処理は,Si-DLC膜の低摩擦化,シリコン添加による硬度減少の防止に有効であると考える。
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