研究概要 |
潤滑しゅう動条件下において,しゅう動表面と潤滑剤の「相性」はその摩擦特性に極めて大きな影響を及ぼす。ここで言う「相性」とは,表面の濡れ性,潤滑剤の表面吸着性等を指す。しゅう動面の表面エネルギーを変化させることにより潤滑特性の向上が見込めるため,表面と潤滑剤の相性に関する研究は数多くなされている。しかしながら,物質/潤滑剤界面の状態を微視的に観察した研究はその重要性に反して極めて少なく,中でも,固体表面を潤滑剤に浸漬した状態で直接観察を行った例は見当たらない。そこで本研究では,中性子反射率法を用い,物質/潤滑剤界面の構造解析を行うこととした。表面エネルギーの異なるDLC膜を用意し,中性子反射率法を用いて水およびイソプロパノールとの界面の構造解析を行ったところ,以下の結論が得られた。(1)DLC膜表面に形成されたO_2プラズマ処理層の厚みは15nmである。(2)DLC膜/水界面の構造解析により,親水DLC膜表面では水は15nmの深さまで浸透しており,撥水DLC表面では3nmの厚みの「低密度水層」を形成している。(3)DLC膜/イソプロパノール界面の構造解析により,親水および標準DLC膜に対してイソプロパノールは約10nmの深さまで浸透している。(4)液体が浸透している界面の摩擦係数は低く,液体が低密度層を形成している界面の摩擦係数は高い。これより,潤滑下での摩擦特性は,物質/潤滑剤の界面構造に敏感に影響を受けることが示唆された。また,添加剤を混入した潤滑剤に金属表面を浸漬させると,3nmの厚みの「境界潤滑膜層」が形成されることも同様の分析により明らかとなった。
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