研究概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)に代表されるナノワイヤ系材料は機械的電気的性質と同様に熱物性に関しても特異な性質を示す可能性が高く,熱制御材料や熱電変換素子などへの新しい応用が期待されている.ただし,その熱物性は結晶構造に強く依存し,同じ材料であってもワイヤ1本1本で異なる値を示す可能性が高い.そこで,実験的研究としてはナノワイヤ1本を取り出して原子レベルの構造観察とあわせて熱伝導率を正確に計測する必要がある.これまでは,多層CNTやSICナノワイヤなどを扱ってきたが,今年度はカップスタック型カーボンナノファイバー(CSCNF)の研究に集中して取り組んだ.その理由はCSCNFが現存する材料の中で最も1次元性が高いものと期待したからである.完全に1次元の材料はフォノンの散乱がないので完全な弾道的熱伝導が発現することが知られている.ただし,最も1次元性が高いと期待されてきた単層CNTでも厳密には3次元構造であるがゆえにフォノンは散乱される.一方,CSCNFはグラフェンカップが整然と1次元的に並んだものであってカップ間相互作用は高度に調和的である.そこで,CSCNFについてHRTEMで構造を十分観察した上でT字一体型センサ法によって熱伝導率の計測を行った.結果としては,拡散的熱伝導に比べて数10倍以上の高い熱伝導が観測された.この現象を理解するために,最大8個のカップを有するCSCNFについて非平衡分子動力学計算を行い,1次元性の指標である熱伝導率の長さ依存性を求めたところ単層CNTを上回る0.7乗則をいう結果を得た.他の研究と比較検討した結果,CSCNFの熱輸送は調和的1次元鎖に3次元振動を許した系に近いことが明らかになった.
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