本研究課題では、以下の2つの項目を研究目的としている。 (1)エレクトロマイグレーションを用いたナノパターニング技術の開発:電荷の移動に伴い誘起されるエレクトロマイグレーション現象における様々な物理的・化学的反応過程を「その場」制御することで、非常に簡便に10nm以下の単電子帯電構造を作製することが可能な技術を開発する。 (2)強磁性単電子デバイス技術の開発:電荷とスピン(電子の2自由度)の制御が可能な新しいデバイス技術を開発する。単電子デバイスの基本原理である単電子帯電効果と強磁性材料の特徴であるスピンが相互作用を及ぼすことで、素子のトンネル磁気抵抗効果の強度増強現象やゲート電圧などの素子制御パラメータに対するトンネル磁気抵抗効果のヒステリシス現象など、これまで知られていない斬新な素子機能を発揮できる可能性を有する。 第2年度(平成21年度)では、昨年度に確立したナノギャップ電極間での電界放射電流誘起型エレクトロマイグレーション法を利用したプレナー型ナノスケールトンネルデバイス作製技術(アクティベーション法)により、強磁性材料としてNiを用いたプレナー型強磁性単電子トランジスタ(FMSET)を作製した。アクティベーション時の各種制御パラメータを検討することで、FMSETの素子特性制御を行った。これらの検討から、室温下において明瞭な単電子帯電効果の観測に成功し、ナノギャップ電極での初期ギャップ幅やアクティベーション時の設定電流値がFMSET特性を制御する上で重要なパラメータであることが判明した。実際に、これらを調整することで、FMSETの帯電エネルギーを制御することに成功した。以上から、電界放射電流を利用したエレクトロマイグレーション現象の発現による新しいナノ加工技術の知見を得ることが出来た。本手法をナノギャップ電極に対して適用することで単電子トランジスタを簡便に作製でき、アクティベーション法による容易な単電子デバイス特性制御の可能性が示された。
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