本研究は、各種生分解性高分子において誘電特性を支配する因子の解明を目指し研究を行っている。本年度は、主として昨年度までの研究により実用性に最も優れることが明瞭となったエステル化澱粉ならびにL型ポリ乳酸(PLLA)とともに、比較のための試料として、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどに注目し、結晶構造と電気的特性の関係の解明等、種々の側面から研究を行った。 主な成果の内容は以下の通りである。 (1)L型ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、低密度ポリエチレンの耐部分放電(PD)性を測定し、比誘電率、融点などの物性値との関達を調べた。その結果、比誘電率が大きいとPDは活発になり、劣化深さが大きくなること、融点が高いほど、単位PD電荷量当りの劣化深さは小さいこと、などを明らかとした。 (2)エステル化澱粉、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリカプロラクトンのPLスペクトル、吸収スペクトルを測定し、全ての試料は、カルボニル基由来と思われる発光エネルギー約3eVの発光帯と不飽和カルボニル基由来と思われる発光エネルギー4eVの発光帯を持つこと、ポリブチレンアジペートテレフタレートでは、ベンゼン環による励起光の吸収が考えられることなどを明らかとした。 (3)密度汎関数法を用いてポリ乳酸のTHz~赤外スペクトルを評価し、同法によりシミュレートされた振動スペクトルは実験結果を良く再現できることを明らかとした。
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