研究課題
本研究では生命現象の一端を担う反応拡散メカニズムを量子ナノ集積体上で模倣する新しい集積システムの構成法を提案した。反応拡散系は多くの化学反応セル---化学振動子---が集合した反応場であり、各セルは微小領域での非線形な化学振動に相当する。近接したセルどうしが物質の拡散により互に影響を及ぼして共鳴を生じ、全体として複雑な物質濃度パターンのダイナミクス(散逸構造)を生み出す。この反応拡散系を電子化するために、多数の単電子トンネル振動子をマトリクス配置して各振動子どうしを容量結合した二次元ネットワーク(電子的な反応拡散系)を設計した。単電子トンネル振動子は単独では単安定の非線形振動(弛張振動)を生じてそのノード電位を変化させる。容量結合は、時間遅れのある相互作用を生じて振動子どうしを拡散的に結びつける。単電子トンネル振動子のネットワークにおいて一つの振動子に電圧トリガを与えると、そこに電子トンネルが発生し、ノード電位の変化を通して隣の振動子の電子トンネルを誘発する。この現象が周囲に時間遅れをもって波及し、系全体として巨視的な時空間秩序をもった負のノード電位パターン---電子的な散逸構造---が生じる。その電子的な散逸構造の挙動をシミュレーション解析した。通常の反応拡散系では、化学的な散逸構造が発生し、それが成長・分裂・増殖など生命的な挙動を示す。ここで設計した系で発生する電子的な散逸構造でも、それと同様の挙動一たとえば螺旋パターンの発生と成長や分裂パターンの生成と増殖など--が見られた。この現象を「単電子振動子ネットワークは培養皿であり、散逸構造は培養皿の中で繁殖する微生物である」と見ることができる。よって、この系は電子的な疑似生命体を生み出す反応拡散系である、という結論を得た。
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IEICE Transactions on Electronics
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