研究概要 |
平成21年度は,本研究の目標である積層ジョセフソン接合からの高周波(テラヘルツ波)放射を実証する上で解明すべき課題として取り組んできた (1)積層ジョセフソン接合中の磁束量子フローによる高周波励振 (2)積層ジョセフソン接合と共振器/アンテナ構造集積による高周波放射の効率化 について大きな進展があった。具体的には,課題(1)に関して,接合に印加する外部磁場に対する電流-電圧特性の変化を詳細に調べた結果,低磁場領域で磁束量子の速度が接合中を最も高速に伝播する電磁波モードに速度整合して同相で集団運動することを見出した。課題(2)関して,接合がマイクロストリップライン共振器の端に位置するデバイスを新たに作製し,マイクロストリップラインが接合の磁束量子フロー特性に与える影響を評価した。その結果,磁束量子フロー電圧がマイクロストリップラインの1/4波長共振周波数に相当する電圧に一致した部分に明瞭な変化を見出した。接合のトンネル特性を変化させること無くマイクロストリップラインを付加し,再び除去する実験により,この変化がマイクロストリップラインの1/4波長共振にともなう放射抵抗が接合をシャントした結果であることを明らかにした。 王は,Argonne研究所,筑波大学のグループが報告したメサ型積層ジョセフソン接合へ電流注入によるテラヘルツ波放射の追試に成功した。電流注入によるテラヘルツ波放射のメカニズムには未解明な点が数多く残されている。特に重要な論点は積層ジョセフソン接合のキャビティ共鳴のモードである。王はLTSEMを用いてキャビティ共鳴モードを直接観測し,共鳴モードがArgonne/筑波大のグループの主張と異なっている可能性を示唆した。
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