本研究の目的は、共鳴トンネル素子(RTD)を分布定数化したアクティブな非線形伝送線路と、それを用いたTHz信号生成・処理技術の可能性を開拓することにある。RTDはTHzを超える高速性を持つ高周波デバイスであり、最近THz領域の信号源としての可能性が注目を集めている。本研究では入出力分離が困難と言うRTDの問題点を解決し、その高速性を活かすため、RTDを配置した非線形伝送線路に着目し、研究を進めている。 本年度は、昨年に引き続き、寄生成分、特にエミッタの寄生容量、コレクタ抵抗を低減したRTDを実現するための作製プロセスの検討を行った。昨年度の検討では、エミッタ引き出し電極形成工程において、エアブリッジ配線をウエットエッチングで形成したことが歩留まりを悪化させる原因となっていた。そのため、ハードベークしたレジストを利用した2層配線構造を導入することを検討した。その結果、ウエハの端を除けば、100%に近い歩留まりが得られるようになった。ハードベークしたレジストは後にアッシングで除去することも可能であり、それにより、さらに容量を小さく出来る。 上記と並行して、RTDペアを装荷した伝送線路の安定性に関して検討を進めた。特に、負性抵抗部分にバイアスが可能であるための条件と、発振を防ぐための条件を詳細に検討した。その結果、Composite Right/Left Handed(CRLH)伝送線路構成の導入により、ゲインの増大と安定動作の両立が可能となることを見出した。この構成について、現実的な素子パラメータを用いたシミュレーションを行い、その基本動作を確認した。
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