研究概要 |
磁壁位置変調方式による磁気センサの性能向上のため,スピンバルブ膜の磁化自由層をアモルファスのCoFeBから,NiFeに代えた磁気抵抗素子を作製し,磁化自由層の保磁力が低減することを確認した。しかし,微結晶のNiFeの場合には,膜面内の磁気異方性の方位に分散があるためか,磁気センサの動作モードには,磁化回転と磁壁移動が混合し,純粋な磁壁移動モードでの動作が難しいことが明らかとなった。このように磁壁移動型の磁気センサでは,磁化自由層の磁気異方性の制御や磁区制御が重要であることが分かったため,CoFeB磁化自由層の磁区構造をKerr顕微鏡と走査型磁気力顕微鏡(MFM)を用いて調べた。幅30μmの細線の長さ方向に対して垂直に磁気異方性を付与した場合,幅80μm前後の磁区が細線に沿って形成されることが分かった。また,細線の端には,三角形の還流磁区構造もMFMにより観察された。MFMに膜面内に静磁界を加える電磁石を設置して,磁界を加えたときの磁壁の移動を観察したところ,磁壁が移動し始めるには,2~3 Oeの磁界が,また,磁区構造の消滅には,15 Oe以上の磁界が必要であることが明らかとなり,微細加工前に比べて,飽和磁界が大幅に増加した。このような飽和磁界の増加はセンサ感度を低下させるため,改善方法を磁壁構造のシミュレーションを行うことで検討した結果,飽和磁化の小さい材料を磁化自由層に用いるか,磁化自由層の膜厚を薄くすることで,反磁界の影響が低減されて磁壁がより動きやすくなり,センサ特性の向上につながることが明らかとなった。
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