研究概要 |
本年度に実施した研究内容と成果の概要は次の通りである。 多種多様な干潟底生生物への生態地盤学手法の展開によって構築した,潜穴,巣穴形成,潜砂等の住活動の形態や生物個体の成長段階の違いに応じて顕著に異なる生物住活動の適合場と限界場の相互関係を現地土砂環境に照らして浮き彫りにする生物住環境診断チャートに基づき,日本各地の自然・造成干潟の土砂環境/底生生物分布の一体調査と一連の室内試験を実施した.具体的には,熊本県白川河口干潟,千葉県夷隅川河口干潟,沖縄県那覇空港前面干潟,および山口県徳山造成干潟の大潮最干時に,サクションs,地下水位,ベーンせん断強度τ^*の空間分布を計測し,表層土砂の不撹乱試料に対して各種の室内試験を実施し,現地土砂の粒度分布,含水比w,土粒子密度G_s,間隙比e,相対密度D_r,および飽和度S_r=G_s・w/eを得るとともに,各地点において4つのコアサンプルを採取し,白川干潟ではアサリとシオフキの成長段階ごとの生息密度分布(平均値±標準誤差)を,那覇空港前面干潟と夷隅川干潟ではコメツキガニとニホンスナモグリの巣穴密度分布を,徳山造成干潟では節足・環形・軟体動物門ごとの生物種・個体密度・湿重量を計測・同定し,得られた底生生物分布と土砂物理環境を突合せて生物住環境診断チャートに照らして分析・考察した.その結果,稚貝から成貝にかけたアサリの空間分布特性をはじめとして,これまで未解明に留まっていた多様な干潟底生生物の生息分布と住み分けの実態が,同チャートときわめて良く整合していることを明らかにした.それゆえ,本チャートは,今後の土砂環境の動態予測を通じて,学術基盤としてはもとより,生態系の保全・再生に向けた生物住環境の性能評価・設計・管理指針として活用発展性が大きい.
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