車いすドライバーを対象とした走行実験を行った。走行条件は、前年度のアンケート調査から、運転が困難とされるカーブ走行とした。走行する車両の振動や遠心力に関する情報は、運転手によって無意識または意識的に感知され、それらの情報が自己調節されて安全運転に活かされている。走行に伴う加速度の変化と、それに伴う筋緊張は運転状況を反映し、安全運転を評価する意義のある指標である。カーブや急激なステアリング操作による遠心力の情報は、左右方向の加速度として、加速や減速は前後方向の加速度によって示される。これらの評価指標から、走行中の運転状況を明らかにし、健常者を基本に設計されてきた運転環境が、障害のある人にとっても満足のできる条件を満たしているかどうかを調べた。その結果、走行速度によって運転負荷の大きさが異なり、安定した姿勢で行う運転操作が困難な走行条件があることが分かった。健常者の運動機能を基本に造られた車両に障害者用の運転補助装置を増設し、単に「操作方法の変更」をした程度では、障害内容を補うことができない場合があることを知った上で、運転状況を科学的に把握し、運転負荷を理解することが重要である。今回対象とした車いすドライバーの運転状況は、片方の手が主にステアリングに、もう一つの手がアクセル・ブレーキの操作に当てられる。両手でステアリングを操作できず、外部の力によって姿勢が不安定な状態になり、不安定な姿勢による運転操作につながることが多くなる。このような運転状況から考えると、車いすドライバーの安全運転に必要なことは、運動機能をベースにした、(1)カーブにおいても安定した姿勢を確保できる座席、(2)障害者用操作レバー類のヒューマンインターフェースの開発等を挙げることができる。
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