本研究では重金属-農薬の混合暴露時におけるヒト肝癌由来細胞(HepG2)を用いて、複合毒性の有無およびその毒性作用の解析を行うことを目的とした。重金属としてヒ素(As)、カドミウム(Cd)、クロミウム(Cr)、および銀ナノ粒子(AgNP、粒径約20μm)、農薬として比較的毒性が弱いとされている除草剤(グリホサート(Gly)およびモリネート(Mol))を用いた。まず、農薬および重金属単独暴露時、および混合暴露時における細胞生存率をニュートラルレッド法により測定した。グリホサートおよびモリネート暴露による細胞毒性は高濃度域(~100mM)においても認められなかった。また、両者を混合した場合においても細胞毒性は認められなかった。一方、各重金属単独暴露による細胞毒性は、強い濃度依存的毒性を示した。次に、各重金属濃度(細胞生存率が100%を維持できる最大濃度)を固定し、グリホサートまたはモリネートの濃度を段階的に増加させて、農薬-重金属混合暴露における細胞毒性試験を行った。しかしながら、細胞毒性が有意に増強もしくは減弱する条件(組合せ)は存在しなかった。さらにこれらの混合暴露条件下で、DNAマイクロアレイ解析を実施し、遺伝子発現プロファイルを求め、重金属単独暴露による発現プロファイルおよび農薬単独による発現プロファイルと比較した。また、既に構築しているモデル化学物質(酸化ストレス、タンパク変性、DNA障害性等に対応)による発現プロファイルと比較した。各混合暴露条件下における遺伝子発現プロファイルは、重金属単独暴露時の発現プロファイルに類似しており、混合暴露時に特異的に発現する遺伝子パターンを見つけることは出来なかった。
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