研究概要 |
欧米では,スピーチプライバシに関する研究が古くから行われており,医療施設における音響設計のガイドラインが存在する.しかし,我が国では,このようなスピーチプライバシに関する明確なガイドラインは存在せず,欧米との言語や国民性の違いを踏まえると,欧米で使用されているガイドラインがそのまま日本においても適用できるかは明らかではない.平成21年度は,日本におけるスピーチプライバシの評価方法を明らかにする事を目的とし,その第一段階として,遮音性能と騒音レベルをパラメータとして単語了解度試験を行い,一般的な遮音性能を示す物理量及び単語了解度の推定に用いる物理量と単語了解度の関係を求め,比較した。その結果,特定場所間音圧レベル差を重み付け法で評価した値(D_<PW>)を用いれば,単語了解度を最も精度良く予測できることを示した.また,実際の設計では,遮音性能と騒音レベルの2つを制御することを踏まえ,D_<PW>と騒音レベルの2つをパラメータとした等単語了解度直線を多重ロジスティック回帰分析を基に作成した.この等単語了解度線は,発声レベルを通常の値である58dBAとした実験結果から作成したが,等単語了解度線の縦軸をD_<PW>-Δdと変更し,Δdを「想定する発話レベルー58」と定義する事で,発話レベルの違いをΔdの増減で置き換えることができることを示し,様々な発話レベルに対応できることを示した.さらに,基礎的検討として,騒音の空間特性が単語了解度に及ぼす影響を検討した.その結果,騒音の両耳間相関度が1の場合にのみ,単語了解度の有意な低下がみられた.しかし,診察室における騒音の両耳間相関度を実測した結果,低周波数帯域を除き両耳間相関度は1よりも十分に低く,空調機騒音等の一般的な室内騒音を想定する場合は,騒音の空間特性を考慮しなくてもよいことを明らかにした。
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