本研究の目的は、カンボジアの都市居住の特性や都市空間の構成等を明らかにすることを通して漸進的な開発に向けた建築・都市計画手法を明らかにすることにある。平成21年度は2年度目にあたり、夏季に15日間、冬季に15日間、合計30日間にわたる現地調査を行い、(1)スクウォッター地区の居住空間構成、(2)都心部の木造高床式住居の変容、(3)農村集落の空間構成、(4)水上集落の空間構成の4つのテーマに従って基礎的調査を行った。特に中心的に調査を行った(4)水上集落の空間構成について、筏住居という形式の住居が集合するアンロンタウー村を対象に住み込み調査を行い、以下の4点を明らかにした。(1)筏住居はベランダ、居間、寝室、台所の4つの空間から構成される。正面入り口から奥にかけ通路が設けられ、両側には部屋が配置され、左右対称の構成をとる。平均床面積の内、3分の1をベランダの面積が占め、室内空間の約半分を居間が占める。(2)「前ベランダ+主室(前面居間・後面個室)+後ベランダ」を基本形式と位置づけた上で、台所の位置ならびに後ベランダの有無から、5つの住居形式にわけることができる。(3)ベランダは、室内でまかないきれない入浴・洗濯といった生活行為の場であるとともに、演出・信仰・収納の場として機能している。また居間の正面・側面は開放性が高く半屋外空間として機能している。住居周辺に浮かべられる付属建物には生活行為の拡張以外に、栽培や飼育のための機能が付与される。(4)6割を超える住居で、住居を相互に連結させている。そこでは、就寝、洗濯、水浴、排泄といった基本的な生活行為については独立性を保ちながらも、炊事・食事、娯楽、休憩、談話といった行為を、居間やベランダを共同利用しながら、共有している。
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