本研究の目的である、安定なZr基のバルク金属ガラス材料が、結晶化という「動的」な現象に対して何故それほど抵抗性を持つのか、という疑問をナノ組織の観点から明らかにするため、実験的アプローチとしてこれまで行ってきたZr吸収端での異常小角散乱測定に加え、今年度はCu吸収端での異常小角散乱実験を試みる予定であった。そのために前年度に海外共同研究者との打ち合わせの上、ドイツ放射光での実験をおこなうための課題申請をし、採択された。しかしこの実験については実験割り当て期間である6月上旬の直前に豚インフルエンザによる実質渡航禁止のため、実験キャンセルを余儀なくされ、課題有効期間内での再実験は不可能となった。そのために本年度においては国内の放射光を利用した時間分解実験(リアルタイムでのナノ準結晶形成過程測定)の実験に重点を移して研究を進め、ZrCuPt合金においてガラス-過冷却融体状態からナノ準結晶が生成する過程における構造変化の特徴を小角散乱(相分離)と中角回折(ナノ準結晶構造の連続性)の観点から調べた。その結果比較的良好な準結晶秩序を形成する本合金系でも組成分離ドメインの大きさと準結晶秩序の形成されるドメインの大きさが一致しないという結果が示された。 これはナノ準結晶が形成される界面においては組成分配としては準結晶と同等でありながら長距離秩序としての準結晶の空間連続性は持たない界面領域が存在することを示唆している。 これは本研究によって初めて明らかにされた内容であり、小角散乱国際会議(Oxford)での口頭発表講演に採択された。本年度行う予定であったCu吸収端の実験は課題申請を再度おこない、来年度おこなう予定である。
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