(1) CuInS_2ナノ結晶中に生成する欠陥種をその発光エネルギーのサイズ依存性を計算機を用いシミュレーションすることで同定した。結果、閃亜鉛鉱型のCuInS_2においては、Cuサイトに置換したInによるドナーレベルの電子と量子化された価電子帯の正孔との再結合に帰属された。化学組成がInリッチであることからも、この帰属は支持された。各種の配位子を用い、生成するCuInS_2相の組成に与える影響を検討したが、化学量論組成を達成できなかった。これらの検討を通し、本課題でべースとしているCuInS_2の合成方法は、反応の開始と同時に析出するIn_2S_3ナノ結晶にCu_2Sが徐々に堆積しCuInS_2へと変化するものであるという反応機構によると結論付けた。 (2) 酢酸亜鉛を亜鉛源とし、錯形成剤にオレイルアミン、オクチルアミンを用い閃亜鉛鉱型ZnSeを、オレイン酸、ノナン酸などカルボン酸を用いウルツ鉱型ZnSeを合成する手法を確立した。粒子のサイズと生成したナノ結晶の質量から結晶成長速度を算出した。ナノ結晶の場合、原子が堆積する面積は結晶の成長と共に増大するので、成長速度を単位面積当たりで規格化した。ウルツ鉱型、閃亜鉛鉱型のいずれのZnSeが生成する場合も結晶成長速度はほぼ同じであった。反応初期のZnSeの生成過程を溶液の光吸収スペクトルで観察したところ、ウルツ鉱型ZnSeが生成する場合は、初期の結晶の大きさが閃亜鉛鉱型ZnSeが生成する場合に比べ大きいことが明らかとされた。このことは、アミンとカルボン酸の酢酸亜鉛への配位力の違いと、それによる過飽和度の差異により説明された。ウルツ鉱型と閃亜鉛鉱型のいずれの相が生成するかは、結晶成長速度ではなく、錯形成剤の配位力の違いによる核生成とそれに引き続くごく初期での結晶成長の差異に起因すると結論した。
|