研究課題
本研究ではマルチフェロイック系酸化物とその関連物質に注目して、材料特性に大きな影響を及ぼすドメイン構造の外場依存性とその制御技術に関する知見を得る事を目的とする。本年度の成果を以下に要約する。(1)格子・電子・スピンの構造秩序に強い相関を示すLa_<0.5>Sr_<1.5>MnO_4を用いて、電荷・軌道整列ドメインの生成プロセスと、ドメイン構造に対する電場効果を研究した。透過電子顕微鏡を用いたその場観察実験により、電荷・軌道整列ドメインの生成過程を明らかにした。本物質では、3d軌道のチェーン方向に応じて二種類のバリアント(方位の異なるドメイン)が存在するが、その体積分率を電場で操作できることを実験的に明らかにした。体積を増したバリアントは、軌道チェーンが電場方向と概ね平行のバリアントであった。理論計算や光伝導実験によれば、軌道チェーンに沿った方向で電子の伝導が起こり易いという報告があり、本研究で観測したバリアント変換にも電子伝導の異方性が関与している可能性がある。本成果は新しい電場誘起のスイッチング現象としてデバイス開発にもつながり得るもので、現象そのものに加えて工学的応用としても意義・興味のある結果と言える。(2)マルチフェロイック化合物の一種であるLuFe_2O_4の電荷整列ドメインと磁気的ドメインの相関を電子顕微鏡で観察・解析した。幾何学的フラストレーションに由来する緻密で複雑な電荷整列ドメインの観察と微弱な磁気信号の検出は実験的に難しく、その対応関係を完全に明らかにする事はできなかった。しかし本研究により、電荷整列ドメインの形態や磁化分布状態の温度依存などを究明でき、世界的に注目を集める本物質の研究に大きく資する結果を得た。
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