本研究では、材料のミクロ組織の特徴を定量的に表す指標である「組織自由エネルギー」論を用いて、それに確率共鳴の考え方を適用することによって、複雑な階層組織をもつ材料における急激な局部的組織変化が組織自由エネルギーに対する外乱により生じることを実証することを目的とする。 本年度は、まず確率共鳴に起因する組織変化および組織自由エネルギー変化を評価するための実験としてFe-10Cr-0.1C-0.2V(mass%)を基本系として、タングステン(W)、モリブデン(Mo)を含む鋼について、マルテンサイト相組織からの回復現象を調べた。その結果、ひずみを多く含むマルテンサイト相の回復過程で、ほとんどひずみの無い粒の生成が確認された。この部分は組織自由エネルギーが突発的に低下している部分であることがわかった。 次に、組織自由エネルギーに対する外力エネルギーの評価として、9Crフェライト系耐熱鋼(Gr.91)について650℃、90〜110MPaの条件でクリープ試験を行い、ラスマルテンサイト相高温での回復における高い転位密度の減少過程に対する応力の効果を調べ、その減少過程を緩和時間として表現し、その緩和時間を応力の関数として表現した。これにより組織自由エネルギーを時間の関数として表現した。なお、マルテンサイト相のラス・ブロックおよびパケット界面ならびにM_<23>C_6炭化物等の析出量に対する応力の効果はほとんど認められないことがわかった。
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